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QICSプロジェクトqics project

QICSプロジェクトHP和訳抜粋
1.  QICSプロジェクト概要
 1-1.  QICSプロジェクトとは
 1-2.  プロジェクト概要
 1-3.  プロジェクトの目的と最終目標
2.  科学的概要
 2-1.  CO2の貯留層から海底または地表への移動(ワークパッケージ1)
 2-2.  CO2漏出の影響予測及びモデリング(ワークパッケージ2)
 2-3.  CO2漏出による海洋地球化学サイクルへの影響(ワークパッケージ3)
 2-4.  CO2による海洋生態系に対する影響(ワークパッケージ4)
 2-5.  CO2漏出のモニタリング(ワークパッケージ5)
 2-6.  海底のCO2流動の予測・緩和(ワークパッケージ6)
3.  CO2漏出実験
4.  国際共同研究

2-4. CO2による海洋生態系に対する影響(ワークパッケージ4)

全体的な目的
このワークパッケージの目的は、CO2漏出による海底の生態系及び生態系機能に及ぼす影響を特定することです。 海洋生物、生物群集やその生体作用が、CO2レベルの上昇にどのように反応する可能性があるのかについては、実験室実験が幅広く行われてきました。しかし、実験室実験で得られたデータは、より現実的なフィールド条件下でまだ検証されていません。そのため、CO2漏出に対する海洋生態系の反応が予測できる信頼性は低いままです。このワークパッケージでは、以下のタスクを実行し、この状況を改善することを目指します。
タスク4.1 人為的なCO2放出による底生生物群集の構造と多様性に及ぼす影響を特定(プリマス海洋研究所、英国地質調査所)
CO2放出実験の期間中、海底からのコアサンプル採取はダイバーにより実施されました。採取されたサンプルは、CO2曝露を受ける1ヶ月間と、CO2放出が終了した後の複数の時点で、それぞれ4つの異なる曝露ゾーンに生息していた生物(小さな微生物から大きな甲殻類・貝類や海洋虫まで)の種類と数を特定するために、実験室で分析されています。この分析により、CO2放出によって底生生物群集の構造、多様性に何らかの変化があったかを確認できます。中間結果によると、CO2の影響が見られたのは放出地点の直上のみと非常に限られており、放出地点から離れた地点の堆積物には影響が見られていません。2013年5月初旬にダイバーらはサイトに戻り、最後のコア採取を実施する予定です。これらのコアを分析することで、放出地点のすぐ近くの海域がCO2の影響から完全に回復できたかどうかを確認できます。

タスク4.2 高濃度のCO2に対して最も脆弱な可能性のある底生生物群集の箇所を特定するための、様々なCO2レベルに対する異なる生物の生理的反応を評価(サウサンプトン大学、プリマス海洋研究所)
堆積物中または海底面で生息する海洋生物種は、CO2レベルの上昇に様々な耐性を示し、この耐性の違いは底生生物群集の多様性と構造に顕著な変化をもたらす可能性があります。このCO2に対する耐性に関する生物種間の違いを評価するために、実験海域内に生息する様々な生物の生理機能に対するCO2曝露の影響をモニタリングしました。特に、生物の健康と代謝機能を左右するのに重要な遺伝子の発現に対するCO2の影響を観察しました。 放出CO2流による二枚貝の生理機能への影響を明らかにするため、QICSのフィールド実験の期間中、ムラサキイガイとホタテ貝が入ったケージ(図1、図2)を実験サイト周辺に設置しました。実験期間中、サンプルはダイバーにより海底から定期的に回収され、陸に持ち帰られました。さらに、ダイバーらは、放出サイト周辺と放出地点から離れた場所それぞれから、ナガウニのサンプルを採取しました。これらのサンプルから、サウサンプトン大学で実施されている遺伝子発現の変化を分析するための組織を得ることができました。現在、細胞の酸塩基平衡(ナトリウム・カリウム・アデノシントリホスタファーゼ)、二酸化炭素調整(脱酸脱水酵素)、解毒(メタロチオネイン)に必要なたんぱく質コード遺伝子の発現の変化が調査されています。サンプルから得たデータは、2013年末までに科学者チームに提供される予定です。


図1:ムラサキイガイとホタテ貝に対する放出CO2による影響をモニタリングするためにQICSサイトにおいて使用されたケージ


図2:QICSサイトにおけるムラサキイガイとホタテ貝に対する放出CO2による影響のモニタリング

タスク4.3 CO2の人為的な放出による海底の堆積物内の主要な生物学的プロセスの速さに及ぼす影響を特定(スコットランド海洋科学協会)
このタスクでは、CO2レベルの上昇による海底の堆積物で起こる生物地球化学的プロセスの速さに対する影響を計算します。堆積物と直上の海水の間での酸素、溶存無機炭素、アルカリ度、カルシウム、栄養塩の交換を直接計測しました。このデータは、高濃度のCO2曝露が、全有機物の代謝回転速度と炭酸カルシウムの堆積物内での溶解速度にどれだけ影響を及ぼすのかを知る情報になります。 CO2の人為的な放出期間中に集めた観察結果や計測結果を利用して、CO2レベルの上昇による海底の堆積物内で生じる主要な生物地球化学的プロセスの速さに対する影響を計算しています。堆積物と直上の海水との間での酸素、溶存無機炭素、アルカリ度と栄養塩の交換、及び堆積物のpHと酸素の分布を直接計測するため、堆積物のインキュベーションチャンバー(図3)から最先端のマイクロプロファイリングまで、様々な技術を使用しました。さらに、堆積物と海水間の金属類の交換速度と堆積物中の水における金属類の移動性も計測しました(図4)。これらのデータはすでに、高濃度のCO2曝露が、全有機物の代謝回転速度と炭酸カルシウムの堆積物内での溶解速度にどれだけ影響を及ぼすのかを示し、さらに間隙水のpHなどの堆積物内における重大な変化をどのくらいの速度で引き起こし、その後回復するのかを知る重要な情報となっています。


図3:海底に設置したインキュベーションチャンバー(堆積物‐海水境界での流束 を計測)


図4:海底に設置したインキュベーションチャンバーからの一回目のサンプリング