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QICSプロジェクトqics project

QICSプロジェクトHP和訳抜粋
1.  QICSプロジェクト概要
 1-1.  QICSプロジェクトとは
 1-2.  プロジェクト概要
 1-3.  プロジェクトの目的と最終目標
2.  科学的概要
 2-1.  CO2の貯留層から海底または地表への移動(ワークパッケージ1)
 2-2.  CO2漏出の影響予測及びモデリング(ワークパッケージ2)
 2-3.  CO2漏出による海洋地球化学サイクルへの影響(ワークパッケージ3)
 2-4.  CO2による海洋生態系に対する影響(ワークパッケージ4)
 2-5.  CO2漏出のモニタリング(ワークパッケージ5)
 2-6.  海底のCO2流動の予測・緩和(ワークパッケージ6)
3.  CO2漏出実験
4.  国際共同研究

3. CO2漏出実験


海水中のCO2放出実験の映像

二酸化炭素回収貯留(CCS)システムからのCO2漏出の可能性は非常に低いと考えられていますが、それでも漏出による海洋生態系への影響を評価できるようにしておくことは非常に重要です。これまでの研究では、実験室での実験や海洋環境における天然CO2の噴出サイトが利用されてきました。これらの研究は有益ではありますが、実験室でのモックアップ試験では現実の複雑さを完全に再現することは不可能であり、また天然の噴出サイトでは(ベースラインとなる)噴出前の計測が存在していないため、影響を定量化することは容易ではないと考えられます。
漏出のリスクを計算するためには、地下におけるCO2の動態を追跡する必要があります。特に、一部のCO2が移行してしまう可能性を評価するため、CO2がどのように恒久的に地下にとどまるのかを知る必要があります。そのため、地下でCO2がどのように移動するのかを理解する必要があります。CCSの貯留サイトは、CO2が貯留サイト(通常、地表から800mよりも深い場所)から周辺の岩石へ移行するリスクが低いという理由で選定されます。しかし、もしCO2が貯留層から移行してしまった場合には、そのうちどれだけの割合が海洋堆積物、そして最終的に海洋環境へ到達してしまう可能性があるのかを理解する必要があります。地質や堆積物の特性の違いが幅広く、CO2の物性は表層へ向かって移動するにつれ、温度と圧力の低下に伴い液体からガスに変化するため、これを定量化することは容易ではありません。

二酸化炭素(CO2)の人為的放出
海洋環境におけるCO2増加による影響に関する知識を深めるため、スコットランドの入り江の海底下で、これまでにないCO2の人為的放出実験を実施しました。陸から入り江の海底下まで坑井を掘削し、海底下12mの深さの堆積物に直接CO2を放出しました。この方法は、上層の堆積物を撹乱することがありません。これは、実際の海底下からのCO2の漏出を模倣する場合に重要な点です。放出する深度は、底生生物群集が生息する層や重要な生化学的プロセスが生じる層よりも深いため、生物学的及び生物地球化学的な観点からも最適です。掘削を開始する前に、海底地形、海底下の岩盤、及び候補となるいくつかのサイトの海底の堆積物の地盤工学的特性についてさらに知るためにマッピング調査を実施する必要がありました。調査の対象となった特性には、孔隙率(堆積物中にどれだけの空間があるか)、浸透性(堆積物をどれだけ液体が通過できるか)、そして堆積物の強度が含まれます。

いつ、どのように実施したのか?
人為的CO2放出は、英国の陸棚においては代表的である砂泥底で実施しました。2012年5月に放出を開始し、36日間にわたり実施しました。その後90日間、回復状況のモニタリングを実施しました。堆積物及び直上の水柱の物理的特性の把握、生物学的及び生物地球化学的分析のため、慎重に時間を合わせた計測が36日間の放出前、放出中、及び放出後に、放出点から一定の距離の場所で実施されました。計測は、放出されたCO2に影響されない近隣の対照サイトでも実施しました。これにより、天候や季節などの自然の変化による影響は無視することができます。

何を計測したのか?
プロジェクトでは、以下を含む、物理学的、化学的、生物学的特性の包括的な計測を実施しました。
・pH、CO2濃度、酸素及び孔隙率の変化を知るため、堆積物と堆積物中に含まれる水の地球化学的及び物理学的特性を分析
・ビデオ及び写真による調査(事前調査と事後調査の両方)
・堆積物及び海底下の水の継続的なロギング
・堆積物から生じる気泡をモニタリングするためにデジタルハイドロホンを配置
・堆積物の温度
・CO2の流動及び拡散を計測するための海水サンプリング
・堆積物中と海底面上の微生物及びより大きな動物の活動

サイトへの配慮
人為的放出を実施する前に、周辺の環境に対して長期的な損害とならないことの確認が非常に重要です。我々は、適切な規制組織による放出が許容可能で支持できるものかどうかの確認に協力しました。規制組織には、スコットランド政府(スコットランドの沿岸海域の規制を管轄)、スコットランド海洋局、クラウンエステート(海底を所有する特殊法人)、スコットランド環境保護庁(SEPA)が含まれます。また、放出サイト近隣の海域の利用者とも協議し、地域の活動の妨げとならない事を確認しました。

QICSの統計
QICSの海底下からの人為的なCO2放出により得られた数値、観測データ、サンプルには、以下の成果が含まれます。
・地上から岩盤を通じて放出地点まで掘削された坑井の長さ‐348m
・放出パイプの先端より上部の後氷期の堆積物の厚さ‐12m
・放出地点の上部の水深‐12m
・海底下の堆積物へ放出されたCO2の量‐4.2トン
・実験中に実施された潜水の回数‐260回
・動物相、微生物、及び堆積物の生物地球化学的分析のために採取された堆積物のコアサンプルの数‐650
・ダイバーが手掴みで採取したウニの数‐150匹
・海底に設置されたムラサキイガイとホタテ貝(指標生物)用のケージの数‐24個
・ダイバーが海底に配置した水中ケーブルの長さ‐1,600m
・ダイバーが海底から回収した水中ケーブルの長さ‐1,600m
・プロジェクト期間中に撮影された水中の画像‐4,000枚
・水中で撮影されたビデオの動画ファイルの容量‐20GB
・水中装置の配置/回収の回数‐200回
・化学分析のために採集された海水サンプル数‐500
・Seol Mara ボートから電気伝導率、水温、水深センサーが投入された回数‐50回
・充電制御式小型潜水艇がボートまたは陸から進水した回数‐6回
・CO2放出実験中のほとんどの期間、サイトで使用された装置の数‐12種類
・海底・海水センサーが一回で採取するデータ地点数‐230,000地点